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福岡地方裁判所 昭和38年(行)7号 判決 1969年8月29日

久留米市西町花畑一、〇一〇番地

原告

江口勇

右訴訟代理人弁護士

江崎晴

久留米市諏訪野町四丁目二、四〇一番地

被告

久留米税務署長

松尾金三

右指定代理人

原田義継

小林淳

大神哲成

大塚悟

右当事者間の所得税更正決定取消請求事件につき当裁判所はつぎのとおり判決する。

主文

被告が原告に対し昭和三六年一〇月二三日付でした別紙第一、番号2記載の昭和三五年度分の所得税の更正、決定(但し、福岡国税局長が昭和三八年二月二〇日付でした別紙第一、番号4記載の審査決定により取消された部分を除く)中、番号5記載の税額を超える部分を取消す。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分しその二を原告の、その一を被告の負担とする。

事実

(当事者双方の求める裁判)

原告

一、被告が原告に対し、昭和三六年一〇月二三日付でした別紙第一、番号2記載の昭和三五年度分の所得税の更正、決定(但し、福岡国税局長が昭和三八年二月二〇日付でした別紙第一、番号4記載の審査決定により取消された部分を除く)はこれを取消す。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

被告

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

(当事者双方の事実上の陳述)

原告の請求原因

一、原告は有限会社ロマン映画劇場の取締役で給与所得者であるが、被告に対し、別紙第一、番号1記載のとおり昭和三五年度分の所得税の確定申告をしたところ、被告は昭和三六年一〇月二三日別紙第一、番号2記載のとおり更正し、過少申告加算税を賦課決定した。

二、そこで、原告は昭和三六年一〇月三一日被告に対し別紙第一、番号3記載のとおり再調査請求をしたところ、同請求は昭和三七年二月一日福岡国税局長に対する審査請求とみなされ、昭和三八年二月二〇日福岡国税局長は別紙第一、番号4記載のとおり判定して、被告のした前記更正、決定のうちこれを超える部分を取消すとの審査決定(裁決)をし、同裁決書謄本は昭和三八年二月二一日原告に送達された。

三、ところで、被告が原告に対し右のような処分をしたのは昭和三五年度において原告には給与所得の他に、なお課税対象となるべき金二〇三万一、六三二円の山林所得、金一八万七、九一〇円の譲渡所得があると認定したことによるものであるが、原告にはそのような所得は全くない。

したがつて、右被告のした処分は所得の認定を誤りひいては税額の算定を誤つた違法なものであるからこれが取消しを求める。

被告の答弁および主張

一、原告主張の請求原因事実のうち第一、第二項は認める。

二、原告主張の請求原因事実第三項中被告が原告に原告主張のとおりの所得があつたと認定したことは認めるが、原告の審査請求にもとづく福岡国税局長の裁決により右は一部取消されたとはいえその余の部分についてはつぎに示すとおりの理由で、なお正当であるから維持されるべきである。

三、原告は昭和二八年一〇月二六日訴外真鍋隼人から別紙第五目録記載の山林を買受け、昭和三五年八月一九日訴外松尾松蔵に対し、これを代金二六八万円で売渡しているので、別紙第二、2の要領でそのうち立木部分の売渡価格を金二一九万六、七二一円、床地部分の売渡価格を金四八万三、二七九円と推計し、また本件山林の管理費は金七万円と認められるが、その取得価格については原告の買い受けた右山林の範囲が別紙第四図示の点線部分より西側二・一五六ヘクタールと〇・一五八ヘクタールの合計二・三一四ヘクタールであること、原告が右山林を取得した昭和二八年一〇月当時の右山林の価格については熊本営林局の資料および相続税評価基準等を勘案して推計するときは立木部分の取得価格を金七九万六、四七四円、床地部分の取得価格を金一二万七、八一九円とするを相当とする。(その推計過程は別紙第二、3記載のとおり)

よつて、別紙第二、4の算式により譲渡所得金一〇万二、七三〇円および山林所得金一一八万〇、二四七円を算出認定し、これにもとづいて別紙第一、番号4記載のとおり所要の判定をするときは福岡国税局長において取消した部分を除くその余の被告のした本件更正、決定はなお正当であつて維持されるべきであり原告の本訴請求は失当である。

被告の主張に対する原告の反論

一、被告主張の原告の給与所得額ならびに社会保険料控除、扶養控除および基礎控除の各額は認める。

二、原告が別紙第五目録記載の山林を被告主張の日、被告主張の代金で松尾松蔵に対し売渡したこと、右代金のうち立木部分の売渡価格が金二一九万六、七二一円、床地部分の売渡価格が金四八万三、二七九円となること、原告が本件山林を被告主張の日訴外真鍋隼人から買受け取得したこと、原告が右山林取得にあたつて支出した仲介手数料が金五万円であり、そのうち立木部分を取得するについて支出されたものが金四万三、〇〇〇円床地部分を取得するについて支出されたものが金七、〇〇〇円であること(別表第二、3関係)は認めるが、その余の被告主張事実は否認する。原告には以下説明するとおり被告の主張するような所得は生じていない。

(一)  原告の売渡した山林の範囲は別紙第四図示記載のとおり実測三・一七ヘクタール(三町二反)であり、この山林は前記のとおり昭和二八年一〇月二六日訴外真鍋隼人から買受けたものであるが、ただその代金は二四〇万円であり、被告主張の如き取得価格ではなかつた。当時右山林には杉立木四〇年生位一六〇本、三〇年生位二百数十本、一七、八年生三、五〇〇本位が生立しており、このことは原告主張の右売買代金の相当であることを裏付けるものといわなければならない。

被告の本件山林の取得価格の推計は本件山林の床地部分の値上り率を昭和三五年は昭和二八年の一、三五倍でしかないのに四倍としていること、被告の本件山林上の生育立木の昭和二八年当時の樹令と本数の基準が低すぎること、そのため、ひいては本件山林の取得価格を不当に低く算定していることなどに照らして、被告のした本件山林の取得価格の算定は杜撰であつて低額にすぎ失当である。

(二)  かりに、本件山林の範囲が被告主張のとおりであつたとしても、原告は別紙第四図面の三・一七ヘクタール全部を本件山林の範囲と誤信して買受けたものであるから右買受代金が金二四〇万円であることには何ら影響を及ぼすものではない。

(三)  ところで原告はさきのとおり右山林の仲介手数料として金五万円を支出しているばかりでなく、本件山林を取得してから売却するまでの間、立木部分について、下刈費金四万円、除伐費金三万円、右作業人夫日当車馬賃金二万五、六二〇円、合計金九万五、六二〇円の管理費を支出している。

(四)  そこで、本件山林の売却による原告の所得金額を計算すると(本件山林の売渡価格金二六八万円のうち立木部分の売渡価格と床地部分の売渡価格の割合および価格ならびに本件山林を取得するに際し支払つた仲介手数料金五万円の割振り額は被告主張と同一とする、別紙第二、2、3を参照。)、別紙第二、5記載のとおりとなり課税所得は生じなかつたものである。原告が譲渡所得も山林所得も申告しなかつたのはけだし当然である。

(立証)

原告

甲第一号証ないし第九号証を提出。

証人真鍋隼人、同真鍋仁三郎、同池尻喜代太(第一、二回)、同茅島幸夫(第一、二回)、同松山正一、同江口貴美子の各証言ならびに原告本人尋問の結果(第一、二回)、鑑定人高橋正行の鑑定の結果、検証の結果(第二回)を援用。

乙第一号証ないし第三号証、第五号証、第六号証の一、二、第八号証の一、二、第九号証の一ないし三、第一〇号証の一、二、第一一号証ないし第二二号証、第二三号証の一、二の各成立を認め、乙第四号証の一ないし三、第七号証の一、二、の各成立は不知。

被告

乙第一号証ないし第三号証、第四号証の一ないし三、第五号証、第六号証の一、二、第七号証の一、二、第八号証の一、二、第九号証の一ないし三、第一〇号証の一、二、第一一号証ないし第二二号証、第二三号証の一、二、を提出。

証人石井正俊、同木原尚朗、同国分満、同高橋正行、同樋口唯夫、同豊田義徳、同豊田正美の各証言ならびに原告本人尋問の結果(第一回)および検証の結果(第一回)を援用。

甲第二ないし第四号証、第六号証ないし第九号証の各成立は認め、甲第一号証、第五号証の各成立は不知。

理由

一、原告が被告に対し別紙第一、番号1記載のとおり昭和三五年度分の所得税の確定申告をしたところ、被告は昭和三六年一〇月二三日付をもつて別紙第一、番号2記載のとおり更正および賦課決定をしたこと、そこで原告は同月三一日被告に対し、別紙第一、番号3記載のとおり再調査の請求をしたところ同請求は昭和三七年二月一日、福岡国税局長に対する審査請求とみなされ、福岡国税局長は昭和三八年二月二〇日付で別紙第一、番号4記載のとおり判定して被告のした右処分中これを超える部分を取消す旨の審査決定(裁決)をし、同裁決書謄本は昭和三八年二月二一日原告に送達されたことは当事者間に争いがない。

二、そこで、被告の主張する本件山林の譲渡に伴う原告の山林所得および譲渡所得の有無について考察する。

原告が訴外松尾松蔵に対し、昭和三五年八月一九日別紙第五目録記載の山林を代金二六八万円で売り渡したこと、ならびにそのうち立木部分の売渡価格が金二一九万六、七二一円、床地部分の売渡価格が金四八万三、二七九円となることは当事者間に争いがない。

(一)  よつて、まず右山林の立木部分および床地部分についての原告の取得原価について検討する。

1、原告が昭和二八年一〇月二六日訴外真鍋隼人から右山林を買い受けたことは当事者間に争いがない。

しかし、右売買代金が金二四〇万円であるとの原告の主張に副う甲第一号証(真鍋隼人作成の売買確認書)第五号証(ノート写)、乙第三号証(池尻喜代太作成の保証書)の各記載、証人真鍋隼人、同真鍋仁三郎、同池尻喜代太(第一回)、同茅島幸夫(第一回)、同江口喜美子の各証言ならびに原告本人尋問の結果(第一回)は、成立に争いのない乙第二号証、第五号証、第一〇号証の一、二、証人石井正俊、同木原尚朗の各証言に照らし措信し難く、他にこれを認めるに足りる証拠はない。すると、原告が本件山林を買い受けた代金が金二四〇万円であることが認められない以上この金額を前提として本件山林の立木部分および床地部分の取得原価を算定することはできないことになる。

2、ところで、本件においては右認定の経過から明らかなとおり、原告が被告に対し、右山林の立木部分および床地部分の各具体的、個別的取得原価を認定するに足る資料を提出したものとは認められないし、そのほか右各取得原価を認定すべき直接証拠はないので推計による認定もやむをえないが、この点について被告の主張する推計は必ずしも合理性を欠くものとはいえないにしても、立木部分の取得原価の推計にあたつて、一般的な物価上昇率ならびに立木成長率に伴う総材積の上昇率のみにとらわれ、立木の種類、数などのほか、その時の売買当事者の思惑などの主観的なものを含む現実の売買における代金額決定上の具体的諸要素を考慮に入れない点においてなお十分であるとは認められないし、床地部分の取得原価推定にあたつても賃貸価格の倍率のみによつて決し、現実売買例などを考慮しない点においてこれまた不十分な推計といわざるをえない。

3、そこで、右各原価を認定するについて、まず原告が真鍋隼人から買受けた本件山林の実測面積、立木の種類および数などについて検討してみる必要がある。

(イ) 原告はその買受けた山林の範囲は別紙第四図示記載のとおり三・一七ヘクタール(三町二反)であると主張し、検証の結果(第一、二回)および鑑定人高橋正行の鑑定の結果によれば原告の主張する現地における山林の範囲が右のとおり三・一七ヘクタールであり、その具体的山林の範囲を説明する証人茅島幸夫の証言(第一、二回)ならびに原告本人尋問の結果(第一、二回)には右原告主張に副うものがあるが、これら証人の証言および原告本人尋問の結果が果して真実に合うものかは疑わしく、かえつて証人豊田正美、同豊田義徳、同樋口唯夫の各証言に現われた右山林の範囲を前記検証の結果および鑑定の結果のほか成立に争いのない乙第二三号証の一、二によつて検討すると、本件山林の範囲は別紙第四の図面の点線以西の部分二・一五六ヘクタールと〇・一五八ヘクタールを合せた二・三一四ヘクタールと認定することができる。この面積に関し、成立に争いのない乙第一三ないし第二一号証(本件山林の登記簿謄本)に記載してある地積は合計一反七畝七歩(一七〇九・〇九平方方メートル)にすぎず、著しく差異があるが、この公簿面積が必ずしも実測面積と一致しないものであることは前記乙第二三号証の二によつても明らかで、このような登記簿上の面積の記載はもとより上記認定を覆するに足るものとはならない。

(ロ) ところで、原告が本件山林を取得した昭和二八年一〇月当時右山林上にどの程度の立木が生立していたかについて検討するに、

まずそのてがかりとして昭和三五年八月当時の立木状況をみるに、証人石井正俊の証言により真正に成立したことの認められる乙第七号証の二、証人国分満、同樋口唯夫の各証言を総合すると、昭和三五年八月当時、本件山林には少くとも杉五〇年生約一五〇本、同三八年生約二〇〇本、同二七年生約一、七〇〇本(合計約二、〇五〇本)が生立していたことが認められる。右認定に反する証人茅島幸夫(第一、二回)、同真鍋仁三郎の各証言ならびに原告本人尋問の結果(第一回)は措信しがたく、また鑑定人高橋正行の鑑定の結果、前記乙第二三号証の一、二、および成立に争いのない甲第八号証によれば、別紙第四の図面の〇・一五八ヘクタールの部分に四五年生から五〇年生の杉一六五本、二・一五六ヘクタールの部分に二五年生前後の杉二、七三八本の生立を推計できるが、これは前記証人樋口唯夫の証言に照らしいささかへだたりのある推計結果であつて必ずしも事実に合致するものとは認められない。

ところで右は昭和三五年八月当時生立していた杉立木の樹令とその数であるが、これによつて昭和二八年一〇月当時には右本数と同じだけの右樹令より七年若い杉立木が生立していたことを推認することができる。

(ハ) そこで、右杉立木の昭和二八年一〇月当時における原告の取得原価を考えてみる。

鑑定人高橋正行の鑑定の結果、ならびに前記甲第八号証、乙第二三号証の一、二を総合して検討すれば、昭和二八年一〇月当時国有林野産物立木処分評定要領に従つて右杉立木の山床における価額を算出すると約金八二万二七〇円となるが、二〇年生の杉約一、七〇〇本はもともと利用価値少く、その後の成長に少くとも五年以上存置すべきものであるけれども、このような幼令林の売買はその時の木材市場の動向、将来の見通し、売買の相手関係によつて価格が決定されており、当時は木材価格の高騰時期で先行き動向も良好とされ、幼令林もかなり高く取引きされていた事情があつたこと、そして、本件の場合利用価値の主体となるのは伐期に近い二〇年生の杉立木であつて、伐期に到達した林分が多少混在していても通常利用価値の主体となるべきものと一緒にして計算されるのが通例であることを考慮し、なお昭和二八年度立木山床価格と林分収穫表との検討から立木一本平均五〇〇円と評価しうるところから、本件立木合計約二、〇五〇本にこれを乗じ概算金一〇〇万円をもつて本件立木の昭和二八年一〇月当時における取得原価と推認することができる。

4、つぎに、原告の昭和二八年一〇月当時における本件山林の床地部分の取得原価について検討する。

類似売買例等の調査に基づく鑑定人高橋正行の鑑定の結果ならびに成立に争いのない乙第二三号証の一、二、によれば山林の床地部分の価格は昭和二八年一〇月当時一〇アール当り二万円程度と推定され、これによれば、本件山林の地積二・三一四ヘクタールでは、その価格は金四六万二、八〇〇円となる計算である。しかし、これをそのまま昭和二八年一〇月当時の取得原価とすることにはかなり疑問がある。すなわち右鑑定人の鑑定の結果によれば、昭和三五年八月にいたる山林の素地価格上昇率を三五パーセント(同価格を一〇アール当り二万円から二万七、〇〇〇円に上昇したとみるのでその上昇率は本文のとおりとなる)とするので昭和三五年八月当時の右床地部分の取得原価は金六二万四、七八〇円となるところ、これは前記右同月における原告の訴外松尾松蔵に対する本件山林床地部分の譲渡価格金四八万三、二七九円を超えるものとなつてしまい右鑑定の結果の妥当性が疑しくなる。したがつて一〇アール当りの価格についての右鑑定結果を基準として原告の本件山林の床地部分の取得原価を算定することは当を得ないこととなる。

ただ右の結果は一〇アール当りの床地部分の価格を金二万円としたことによるものであつて、その素地上昇率三五パーセントは推計の基礎とするに十分であると考えられるから、当裁判所は前記昭和三五年八月当時における原告の松尾松蔵に対する売渡価格金四八万三、二七九円に対する三五パーセント上昇前の価格、すなわち、金三五万七、九八四円をもつて原告の昭和二八年一〇月当時の右山林の床地部分の取得原価と推認する。

なお成立に争いのない乙第八、九号証の各一、二により明らかな昭和二八年度と昭和三五年度の相続財産評価基準の賃貸価格の倍率を比べると昭和二八年度を一とすれば昭和三五年度は四となつているので上昇率を四と推定することもできないではないが、成立に争いのない乙第一号証に記載してある右年度間の立木価格の上昇率が二であることに比し必ずしも均衡をえたものとは認められないから、床地価格の上昇率四を推計の基準には採用しない。

(二)  ところで本件山林を取得するのに原告の支出した仲介手数料が金五万円でそのうち立木部分を取得するに支出した部分が金四万三、〇〇〇円床地部分を取得するに支出した部分が金七、〇〇〇円であることは当事者間に争いがないので本件山林の立木部分の取得価格は取得原価金一〇〇万円と仲介手数料金四万三、〇〇〇円を加えた金一〇四万三、〇〇〇円、床地部分の取得価格は取得原価金三五万七、九八四円と仲介手数料金七、〇〇〇円を加えた金三六万四、九八四円と認定する。

(三)  つぎに本件山林の立木部分の必要経費について検討するに、原告は立木部分について、売却までに下刈費金四万円、除伐費金三万円、右作業日当車馬賃金二万五、六二〇円、合計金九万五、六二〇円の管理費を支出したと主張する。ところで内金七万円の範囲での管理費を要した事実は被告が主張し、原告も管理費として下刈費金四万円、除伐費金三万円、合計金七万円を支出したことを主張しているので、管理費として原告が金七万円を支出したことは当事者間に争いのないところであると認められる。しかし、原告主張のこれを超える管理費の額については証人松山正一の証言および原告本人尋問の結果(第二回)によつてもこれを認めるには足らず、他にこれを認めるべき証拠はない。

(四)  そこで、譲渡所得および山林所得は別紙第二、6記載のとおりの計算により譲渡所得はなく、山林所得を金九三万三、七二一円と認定する。

(五)  以上によつて所定税額を算出すると別紙第一、番号5記載のとおりとなる。

(六)  すると被告が原告に対し昭和三六年一〇月二三日付でした別紙第一、番号2記載の昭和三五年度分所得税の更正、決定(但し、福岡国税局長が昭和三八年三月二〇日にした別紙第一、番号4記載の審査決定により取消された部分を除く)中当裁判所の認定した別紙第一、番号5記載の税額を超える部分は違法であつて取消しを免れない。

よつて、本訴請求は右処分中違法部分の取消しを求める限度において正当であるからこれを認容し、その余の部分の取消しを求める部分は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九二条本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 生田謙二 裁判官 早船嘉一 裁判官 福田晧一)

第一 原告の昭和35年度分所得税について確定申告から審査決定にいたるまでの経過およびその内容と当裁判所の認定(数字はいずれも金額にして単位は円)

<省略>

第二

1 譲渡所得金額 187,910円

<省略>

山林所得金額 2,031,632円

(立木部分の売渡価格 2,500,000円-立木部分の取得価格 318,368円)-控除額 150,000円=2,031,632円

2 本件立木部分および床地部分の各別の売渡価格の算出

原告は、昭和35年8月19日本件山林を金2,680,000円で松尾松蔵に売渡しているので、2,680,000円を、つぎのとおり按分して本件立木および床地の各部分各別の売渡価格を算出した。

その按分比は立木250に対し、床地55としたが、これは松尾松蔵が昭和35年9月13日本件立木部分を2,500,000円、床地部分を550,000円、として転売したのでその各金額の比によつたものである。

これによるときは、

本件立木部分の売渡価格は <省略>

本件床地部分の売渡価格は <省略>

3(1) 本件立木部分の取得価格

物価上昇による立木価格の上昇率および立木の成長による立木価格の上昇率を算出し、右各上昇率を勘案して本件部分の売渡価格からその取得価格を逆算する。

(イ) 物価上昇による立木価格の上昇率は昭和28年10月(本件立木部分の取得時)を1とすると昭和35年8月(本件立木の売渡時)は2である。

(ロ) 本件立木は売渡時に、杉立木は樹令50年もの、同38年もの、同27年ものから成つており、取得時から7年間の成長期間がある。そこで相続税財産評価基準および標準価格調書にもとずいて右立木に相当する杉の成長に伴う立木価格の上昇率を算出すると、

<省略>

となり、各上昇率の平均値は68.6%である。

(ハ) そこで、本件立木部分の原価を計算すると、

<省略>

これに、本件山林を取得する際支払つた仲介手数料50,000円のうち43,000円を加えた796,474円が本件立木部分の取得価格となる。 (註)

(註)これは仲介手数料50,000円を本件立木部分の原価753,474円と本件床地部分の原価120,819円(次項参照)の按分によつて、つぎのとおり計算したものである。

<省略>

(2) 本件床地部分の取得価格

昭和35年の山林床地の価格は昭和28年のそれの4倍である。したがつてその原価は

<省略>

であるが、これに前記仲介手数料7,000円を加えた127,819円が本件床地部分の取得価格となる。 (註)

(註) 仲介手数料50,000円から立木部分関係分を控除した残。

4 譲渡所得金額 102,730円

<省略>

山林所得金額 1,180,247円

(立木部分の売渡価格2,196,721円-立木部分の取得価格796,474円-管理費70,000円)-控除額150,000=1,180,247円

5 譲渡所得金額 0円

<省略>

山林所得金額 0円

(立木部分の売渡価格2,196,721円-立木部分の取得価格2,085,016円-管理費95,620円)-控除額150,000円<0 註(2)

註(1) <省略>

(2) 立木部分の取得価格については、床地および立木を合せた総買受代金2,400,000円-上記床地部分の取得価格357,984円-2,042,016円の取得原価に、取得にあたつて支出した仲介手数料のうち43,000円を加えた2,085,016円が、床地部分の取得価格となる。

6 譲渡所得金額 0円

<省略>

山林所得金額 933,700円

(立木部分の売渡価格2,196,721円-立木部分の取得価格1,043,000円-管理費70,000円)-控除額150,000円=933,721円

第三 欠

第四

<省略>

第五 目録

福岡県八女郡大淵村北大淵字道の上八〇七番地の五

一、山林 四五六・一九平方メートル(四畝一八歩)

同所 八一四番地の四

一、山林 一九八・三四平方メートル(二畝歩)

同所 八一四番地の五

一、山林 三九・六六平方メートル(一二歩)

同所 八一四番地の六

一、山林 一九八・三四平方メートル(二畝歩)

同所 八一四番地の七の一

一、山林 一九八・三四平方メートル(二畝歩)

同所 八一四番地の七の二

一、山林 一九八・三四平方メートル(二畝歩)

同所 八一四番地の九

一、山林 一九八・三四平方メートル(二畝歩)

同所 八一五番地

一、山林 一〇五・七八平方メートル(一畝二歩)

同所 八一六番地の二

一、山林 一一五・七〇平方メートル(一畝五歩)

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